ASPARK OWL のデザイナー
大津秀夫氏 独占インタビュー Vol.6
インタビュアー:真栄中美樹
2019.05.13 23:14
Q10:自分がデザインした車が走っているところを見てどう思いましたか?
30年近く前からコンセプトカーなどの製作に関わってきましたので、そういう瞬間に対してあまりありがたみを感じなくなってしまっているのかな、と思います。
数少ない自分が全てデザインした車の1台なのですから、もうちょっと気分が高揚してもいいのに…、ちょっともったいないような気もしますね。
アスパーク社の車の時はそうだったのですが、その前にデザインしたIF-02RDS(赤い車)の1号車をテストコースで走らせている動画を初めて見た時は、むしろこちらのほうが、実際に見ているわけではないのに感慨深いものがありました。
その動画を見たのは2013年の東京モーターショーの会場、イケヤフォーミュラさんのブースで展示車両の後ろに設置された大型モニターでだったのですが、本当にその車がモーターショー会場に展示されていて、その後ろでこの動画が流れている、その光景はちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが夢のようでもありました。
こんな日が来るといいな…かつて何度もそう思っていたその光景でしたから。
しばらくの間、達成感とか満足感とか充実感とか、そういう気持ちでいっぱいでした。
ただ、更に前の事を思い返してみれば…、自動車メーカーのコンセプトカーの製作でプロジェクトリーダーとして取り組むようになりはじめた頃(年齢的には30代の前半)、自分で設計し、製作の取りまとめをした車を自動車メーカーのテストコースに持ち込み、走行テストとプロモーションムービーの撮影に立ち会った時のほうが、(種類はちょっと違いますが)緊張と興奮の度合いは全然大きかったです。
その時の車で自分のデザインが採用されたのはホイールカバー(ホイール本体でもなく、機能面での意味は無いただのカバー)だけでしたけど。
話をアスパーク社の車に戻すと、フランクフルトショーに展示した車に関しては、私自身はショー会場には行っていませんので自分の目でその様子を見ることは無かったのですが、想像以上に好評だったようで、沢山のウェブサイトで取り上げられた写真を見て、あぁ良かった、うまくいったんだ…と思い、嬉しさがこみ上げたような気がします。
開催前は、あの世界一大きな会場で、名も無いこの車は誰からも注目してもらえないのではないか…そういう不安がありました。
アスパーク社がお披露目の場にフランクフルトショーを考えていると言ったときには、それはちょっと(上の理由で)心配だから、せめてジュネーブにしてはどうでしょう?(ジュネーブショーはフランクフルトやパリなどと並んで有名な国際ショーのひとつで、フランクフルトほどの規模は無いが、この種の新興メーカーでも出展しやすく、小規模メーカーのデザインオリエンテッドな車の出展が多く、メディアもそういう車を好意的に取材してくれる)と提案したくらいです。
しかし、アスパーク社の吉田社長は“世界市場にインパクトを与える発表の場としてはフランクフルトがベスト。”と譲らず、こちらもそれ以上は言えませんでした。
そんなことがあってのフランクフルトショー開幕だったわけですが、ふたを開けてみれば私の心配をよそに予想以上の大好評。
特に海外のメディアには思いのほか取り上げられ(日本のメディアはちょっと冷めた、やや淋しい扱いでしたが)、それだけではなく“このままでいいからすぐ売ってくれ”とブラックカードを差し出された…というような気の早い引き合い話が数件あったとのことで、さすが世界一のフランクフルト、見に来る人のスケールも違う…と、驚くとともにひと安心した次第です。
その後、年が明けて2018年2月、遅れていた0~100km/h発進加速2秒以下という記録もようやく達成され、2秒どころか1.8秒台も記録、条件によっては1.7秒台も視野に入れられるほどのところまでとなり、私達の開発プロジェクトは終了しました。