ASPARK OWL のデザイナー 大津秀夫氏 独占インタビュー Vol.3

インタビュアー:真栄中美樹    
2019.05.13 23:14    




Q4:栃木という地方都市での大きなチャレンジ”に関して

まず関わる側としては、これは場所がどこであろうとあまり関係は無く、どういう人が何をやろうとしているかが 重要だと思います。

志と能力を持った方が明確なビジョンを持って行動する、それが根幹であり、それに必要十分な資金と有能な 協力者が加わるかどうかだと思います。

外部から見た場合は、例えば栃木県や鹿沼市はイケヤフォーミュラさんのことをとても誇らしく思ってくれて いるようで、県や市のイベントに池谷さんと車を呼びたがって(モーターショーのあとしばらくは池谷さん そういう事の対応で忙しそうでした)、更にはアピール用ポスターのメインビジュアルにIF-02RDS(赤い車)を 使うほどです。いわゆる“まちおこし”のイメージリーダーとして使われているわけです。



近隣の県や市にしても、こういう事例は“負けていられない”とか、“自分達にも出来そう”と思って励みになるかも しれませんので、そういう意味では同じ事を東京などでやるよりも好ましいのかなと思います。

もっと大きな目で見ると、同じ事をイギリス(この種の車の開発事業に優しく手厚い配慮がある)とかでやるよりも 日本ははるかにハードルが高いので、そういう意味ではより価値のあることではないかと思います。

イケヤフォーミュラさんはレーシングカーの開発、製造、販売を少数ながら行った実績がありますし、自衛隊の 特殊車両(かなり簡単な作りですが)の開発、生産も請け負ったことがあります。

動力伝達系やサスペンションなど、高品質パーツの開発、製造、販売では十分な実績があります。

更に大手部品メーカーでも無いような試験機を自分達の開発に必要だからという理由で自前で開発して実際に 運用、上記シームレストランスミッションなど、自動車メーカーや大手部品メーカーがどこも実現できなかった ような重要機能部品まで自社開発できるような、非常に高い能力を持っています。
ほおっておいても自分達だけで少なくとも車の中身は全部作れてしまうくらいのポテンシャルがあります。

ただ、デザインとボディ製作にはあまり自身が無いとのことでしたが、僭越ではありますが、そこにその方面で 20年以上の経験を持つ私と私のかつての同僚など協力者達が組み合わされれば、ほぼ問題無く開発は 進められるだろうと思いました。

これは主にアスパーク社の車の前の話ですが、イケヤフォーミュラさんのオリジナルスポーツカー、IF-02RDS (2013年と2017年の東京モーターショーに出展された赤い車)の開発において、プロジェクトの最初の頃、 それこそ見積もりとかの段階ではどうなるかな、本当にうまくいくかな…と時々思わないわけでもなかったですが、 プロジェクトが進むうちに、イケヤフォーミュラさんの社員さん達の個々の能力の高さに驚かされたりして、

もちろん途中でも心配事は色々ありましたし(ガラスのこととかライト類のこととか)、2017年の車検取得ギリギリ までは相手が何せ国交省ですから随分ナーバスにもなりました。でも、全ての障壁(排気ガス試験、騒音試験、 ブレーキ試験等々)を乗り越えてくれました。 さすがイケヤフォーミュラさんです。私からしたら魔法のように思えるところもいくつもありました。

ただ、アスパーク社からのリクエストの中には…、いくらなんでもこれはちょっと無謀ではないか?と思える ものがありました。

元々アスパーク社は車のことやモノ作りに関しては全くの素人同然で知識も経験も無い方々でしたので、 無茶な要求を平気でするようなところがあるというのはわからないではないですが…、 車を停止状態から時速100km/hまで加速させるのに2秒以下というのがその要求性能で、そんな現実離れした 猛烈な加速を実現できた車はそれまで世界中に存在しませんでした。

この話を初めて聞いたときは、“池谷さん、よくそんな無茶なお話を請けられましたね…。”と正直に言って しまったほどです。

池谷さんはいつもの穏やかさで“シミュレーションしてみたら十分可能性有りなんですよ。”と言われましたが、 私としては懐疑的で、それは試験車両が完成して走行試験を始めてからも同じ気持ちでした。



それでもともかくプロジェクトは動き出し、テスト走行とモディファイ、設計変更を繰り返していくのですが…、
案の定、記録を出すのに予定を数ヶ月超過、結構手間取ってしまいます。

それでも最終的にはこの要求性能を大きく上回る記録を叩き出します。



それも何度も、あたり前のように。これでまた私は池谷さんとイケヤフォーミュラの皆さんのことを、本当に すごいなこの人たちは、本当に…とあらためて思いました。

このことに私はただただ感心したのですが、池谷さんにしてみれば当初のもうひとつの心配事のほうが 大きかったのかもしれません。

それは2017年の9月に開催されたフランクフルトショーに出展すると(プロジェクトの途中でいきなり)決めた ショーカーの製作は本当に間に合うのか? という事だったのですが、ショーカーの製作は主に私のほうの 責任範囲であり、このショーへの出展の話はプロジェクトのスタート時には考慮されておらず、開発なかばで アスパーク社からの強い希望で決まった話なので、私も非常にしんどい思い(デザイン、設計、データ作り、 パーツ手配、外注管理、お客様とのやり取り等…)はしましたが、苦労の末3Dデータを全て作り、それを 複数の強力な外注業者とともに現物化(ハニカム構造のカーボンボディ、5軸切削機や3Dプリンター等を 駆使した各種パーツ製作、ウインドーグラスなどなど…)、スキルの高いモデラー(かつての同僚達)による 仕上げとアッセンブル…などによって、予定の約1週間前にはほぼ完成させることが出来、余裕を持って ドイツへのシッピングを依頼した業者に引き渡すことが出来ました。







それは池谷さんにとっての驚きだったようです。

私も目処がつくまでは非常に心配しましたが、最終アッセンブルを担当してくれたモデラー(かつての同僚、 先輩)がとてもスキルの高い経験豊富な方で、その方が“この内容なら、淡々と作業を進めていけば きっと大丈夫ですよ。”と言ってくれて安心できました。

かつて一緒に何度も修羅場をくぐってきた方ですので、その言葉には説得力があります。

私はこの方が大好きなのですが、この方以外にもこの車に関わった関係者、外注業者などすべての 方々に感謝したいです。

フランクフルトショーへの出展と(当初無謀と思われた)0〜100km/h発進加速2秒以下の記録達成、 この2つをもってイケヤフォーミュラさんと私の請け負った仕事は完遂されたことになり、このあとは アスパークさんがこの車の市販バージョンの開発を依頼した Manifattura Automobili Torino (MAT: この種の車の開発に実績のあるイタリアの会社) の仕事になります。

市販モデルのデビューは11月のドバイ・モーターショー、納車は2020年の春以降とのことです。(その後少し遅れはしましたが、2020年12月、無事市販が開始されました。:2021年3月19日加筆)




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