ASPARK OWL のデザイナー 大津秀夫氏 独占インタビュー Vol.5

インタビュアー:真栄中美樹    
2019.05.13 23:14    






Q7:デザインが浮かばないときはどうするのですか?

特に何か別の事をするということは無いです。

普通にアイディア出しを続けます。

頭に浮かんだイメージを紙に手描きでちょっと描いてみて、良さそうだなと思ったらすぐに3Dソフト上で作って確認。





この時点であんまり良くなさそうならその案は捨てて、良さそうだったら少しずつ修正して洗練させていきます。

その途中でやっぱり思ったようなものにならなそうだと思ったらそこでやめて、また最初に戻ります。その繰り返しです。








デザインが浮かばない時というわけではないですが、車のデザインをしていない時という事であれば、オーディオ、特にスピーカーのデザイン、設計をよくやっています。

あとは、これもデザインが浮かばない時というわけではないですが、よくやっているのは車関連のサイトを巡回して新型車のニュースっぽい記事を見たり、好きな車の画像を見つけては保存してため込んでいます。

過去に保存したものと同じものを忘れてまた保存してしまう、ということもよくやりますw

同じようにメカニズム関係の画像も、興味のあるもの、仕事に使うことがありそうなものなど保存しています。

透視画像を作る仕事では、こういった画像がアイディア出しに役立つことはあります。

好きな音楽を聴くという事はよくやりますが、それはアイディアが出ないから気分転換で、というようなものではなく、普通に仕事しながら流しています。

ロードバイクに乗る、室内で3本ローラーをこぐ(競輪選手が室内でトレーニングで乗るアレです)、という事もやりますが、それらもやはりアイディアが出ないときの気分転換ではなく、それはその目的でやることなので、この質問に対する答えにはならないですね。




Q8:アスパーク OWLが完成した瞬間の事を教えてください。

当初心配していたよりもいいものになったと思えて、あぁ良かったと思いました。





初期の頃のデザインは自分で全然良いと思えなかったので、あれをよくここまでに持ってこれたな…、というふうに思いました。
お客様であるアスパーク社の吉田社長もとても気に入ってくれましたし、最初は自分のところの赤い車(IF-02RDS)のほうが自分は好みだと言っていた池谷さんも、“やっぱりこっちもいいですね、いやぁカッコイイ…。“と言ってくれて嬉しかったです。




Q9:このデザインを手がけて実現出来たことでなにかご自身に変化はありましたか?

実現できたこととしては、技術的なところでは前述のインテリアパーツのほぼ全てと、外装のライトの内部などを3Dプリンター(光造形と粉末造形)で成形できたこと。これは初の試みで、これまでは小さめな部品をこれらの製法で作ることはあっても、大きなパネルを丸ごと、しかもほぼ全てのインテリアパーツをこの製法でというのは、何か大きな問題が起きないか少しばかり心配しましたが、結果は予想を上回る良い出来で、精度はもちろん、表面の仕上がり状態も良く、納期も従来からは考えられない短さで、嬉しい驚きでした。

私のようなものにとって実に良い時代になったものだと思います。



シートのクッション材を5軸NC切削機で直接成形できたこともそうで、これは従来スキルの高い人がやわらかいクッション材を手作業で成形していたところなので、ある程度時間がかかるのはしょうがないし、精度も成り行きというかそれなりのもので、とにかく最終的に表面に張る革である種強引に形にする…というようなものだったのですが、これも速さと精度で納期短縮に大きく貢献してくれました。



これらのことは、数年前からこうすれば出来るんじゃないかな…と思っていたことでもあり、今回必要に迫られてですが実際にやってみて、十分実用に耐える…どころか、従来の製法をほぼ全ての面で大きく上回る効率で高品質のものが作れることがわかり、それがショーカーとはいえ、ちゃんと車に組み付けられた状態で残る実績となり、見込みの正しさも証明できてある種の自信になりました。

それから、インテリアに使ったオフホワイトのレザー(本革)を当初国内メーカーで手配していたのですが、メーカーと、間に入った業者の両方でトラブルが続き(最初に選定してお客様にも承認してもらったものが、良く見たら量が足りなそうなので別のものにしてくれないかと言われ、何だそりゃ…と思いながら新たにカタログから選定しなおして、お客様からも何とか承認してもらったものが届いてみたらサンプルと全然違う色で、お客様に確認するまでも無く使えない。この発注に要した費用は弊社丸かぶり…。 何なん?革関係の業者w)、 使えなくなり、急遽東京の浅草(昔からレザーの卸問屋が多い)に直接仕入れる覚悟で現金持参で行ったのですが、残念ながら色と量の両面を同時に満たす現物は見つからず、ある輸入商社でイタリア製のサンプルの中から望ましいものを見つけてダメ元で納期を聞くと十分間に合いそうなことがわかり、急遽それをイタリア本国に発注、本当に間に合う、という“綱渡り”に成功しましたw



当初、納期や何か問題が発生した時の事を考えると、やはり国内メーカーのものが良かろうと思ってそちら方面にあたっていたのですが、国内メーカーの場合、色や風合いに限りが有って選択肢が少ない、それでも何とか選んで発注すると納期が1〜2ヶ月(標準品で在庫があれば別)。それに対してイタリアのメーカーの場合、色も風合いも国内メーカーの数倍以上の選択肢有り、風合い豊かで質感とても良い、イタリアからの輸入にもかかわらず納期は最短で1週間強、長くて10日、価格は国内メーカーと同等かむしろ安い(輸送費を含む、決済はもちろん日本円で国内の銀行口座へ振込みでOK)とはどういう事なのか? さすがレザーの本場イタリア様、最高じゃないかw

上記のトラブルが無ければ、そして自分で買い付けに行かなければこういう事は知らないままでした。



このレザーの手配問題はある意味軽い修羅場でしたので、その時は本当に大変でどうなることかと思いましたが、自分で動いて実際に目で見てお金も使ってw 得た経験は他では得がたいものでした。今度からはこのイタリアメーカーの見てるだけで楽しくなるようなサンプル帳(発注時に実費でいただいてきた)を見て、豊かな風合いのステキな色のレザーを注文しようと思っています。

そして自分自身の変化、というのとはちょっと違うのですが…、

これの前にデザインしたIF-02RDSをデザインしているときから思っていたことがありまして、それはあの車のデザインは本物のレーシングカーにかなり近いもので、それは池谷さんが望んだものであり、そういうデザインが好きな人に向けて大きな魅力になるところでもあるのですが、それでも、もう少しだけレーシングカーから離れて、いわゆるスーパーカー側にほんの少し寄せたほうが良かったのではないかな…ということです。

どの部分がそうかというと、ボディ側面の断面形状とフロントエンドの高さ。ボディ側面はフロントエンドからリヤエンドまで、平面に近いほぼ垂直な面がずっと通っているのですが、これはお手本としたレーシングカーがレギュレーション(車両規則)とエアロダイナミクス(空気力学)上の理由でこうなっていて、フロントエンドも可能な限り低く、横から見たらまさに地上数センチに浮いた楔(くさび)のようなことになっています。池谷さんはその雰囲気をそのまま路上に再現することを望まれたわけです。

池谷さんと私は好みがかなり近いのですが、ここに関してだけは少し違いました。

私としてはフロントエンドの高さはともかく(保安基準を満たすためのヘッドライトのレイアウトなどは難しいのですが、低いこと自体は良い。だが、ここを上げられれば色々とデザインの自由度が増す)、ボディサイドはもう少し断面形状に丸みを持たせた、いわゆる張りのある、豊かさを感じる形状にしたいと思いました。

これは個人的な好みという事もありますが、商品性としてもそのほうが良いのではないかと思いましたので、そういう提案をしたこともあったのですが、それを見た池谷さんは“逆です逆です、この面はもっとシャキッと平面に近い方向でいいんです…。”とのことで、そのようにまとめたという経緯があります。



そういう経緯で完成したIF-02RDSですが、全体的にはかなり好みのものになったし、池谷さんにもとても気に入ってもらえたので、これはこれで良かったのだと思いましたが、もしも次の機会があるのなら、この2箇所に関してはもう少し普通のスーパーカー寄り(フェラーリなどに近づく方向)にまとめたものにしてみたいなと思っていました。

そして、その“次の機会”は思いがけずすぐやってきました。
アスパーク社の車はまさにそういうポジションにあるデザインにできたのではないかと思えるので、この車単体での完成度やデザインの魅力とは別に、そういう意味でも良かったなと思います。

そして“変化”は、私ではなくて池谷さんの気持ちというか感じ方にありました。







Q8の回答でも書きましたが、“自分はうちの車(IF-02RDS:赤い車)のほうが好みだと思っていたんですが…、これ見ると、やっぱりこっちもいいですね、いやぁカッコイイ…。”と言ってくれたのが嬉しかったです。

やった!わかってもらえた、という気持ちです。

自分が作ったもので喜んで欲しい人に喜んでもらえる、カッコイイと言って欲しい人にカッコイイと言ってもらえる、こんないいことは他にありません。





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