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アルミ削り出しの良し悪し、素材の使い方




アルミ削り出しパーツをありがたがる人が多い。
確かに、プッシュロッド形式のサスペンションのベルクランクとか、
削り出しでいかにもカッコ良く見えるものはある。そういうのは私も好きだ。
だが、何でもかんでも削り出しにすればいいというものでもない。
その質感がいいからといっても表面の質感だけなら、プレスとかも変わりないし、
ある程度より大きいものは重くて、製作費がバカみたいに高くなるしで、あまりいいことはない。
しいていえば設計が簡単なことくらいか。

アルミ材をうまく使うには、剛性が必要な方向に十分な寸法をとって、比較的
負荷のかからない方向に対しては大胆に薄くするなど断面を工夫する必要がある。
そうすれば機能部品としていいものになる。
実際に、アルミがそれほど好きではない私も、これまでにヒンジ類、ブラケット類、
ドアハンドルなど、アルミ削り出しでたくさん設計、製作してきた。中には気に入って、
手元に置いておきたいと思うようなものもあった。

ただ、そういう機能パーツはいいのだが、例えば…アルミ削り出しマフラーカッターとか、
アルミ削り出しランプベゼルとか、そういうものを見たり実際に手にとってみると、
ズシっとくるその重さと製作費の高さに、一体何がやりたいんだか…と思ってしまう。

過去に製作のとりまとめと設計を担当した仕事で、あるコンセプトカーのサイド面に、
ほぼ車の全長に近い長さで、緩くカーブしたちょっと太めの立体的なアルミモールを
作ったことがあるのだが、この大きさで3次曲面となるとまさしく法外な製作費がかかった。
あまりの見積もりの高さに、(見積もりといっても工期が無さ過ぎて、製作に取り掛かって
もらってからの見積もりという、良くないパターン…)いくらお客様のご希望とはいえ、
これは作ってはいけないものではないのか…?
アルミとお金の使い方を間違っている…。真面目にそう思った。
アルミモール左右で、数百万台の後半、ざっと高級車1台分である。



重量剛性比でいうとどんな金属も実はそれほど変わりはなく、(構造材としてありえない
ような金や銅などは除いてく。ちなみにカーボンは非金属だがさすがに魅力的な数値。)
例えば鉄と同じような形状で同等の剛性をアルミで得ようとすれば大雑把に3倍近い厚みを
必要とするわけで、そのまま設計してしまったらアルミを使うメリットが無い。

開発中のこの車も、当初アルミパイプを使ったフレームを考えていたのだが、基本設計
段階でイケヤフォーミュラさんがシミュレーションしたところ、どうしても望む剛性が得られず
スチールパイプに変更となった。

このシャシー剛性をみるシミュレーション、順番はどうだったか聞き忘れたが、
プロジェクトのごく初期にベース車として使えないかと考えたロータス・エリーゼ系(2-Eleven?)
のシャシーも同様にチェックしたところ、全然ダメダメで、諦めたとのこと。
せっかく新規に作るのにこれではあんまりだ…と。

シミュレーションの結果は残念なものだったが、それによって、フレームからオリジナルのものを
作ろうと決心するに至るのだから、ロータスのシャシーがそういうものでしかなかったことは
私としては幸運だったといえる。
それによって、サスペンションレイアウトやウインドーグラス類の制約が無くなり、ずっとデザイン、
設計がやりやすく、やりがいが大きくなったのだから。
(その後、フロントウインドスクリーンはまた別の制約を抱えることになるが、それはむしろ
非常に望ましいことでもあったので、良かった。)







削り出しも良し悪し。使い方次第と…。

2013年07月29日(月) No.649 (ミッドシップ スーパースポーツ IF-02RDS)
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