ASPARK OWL のデザイナー 大津秀夫氏 独占インタビュー Vol.7

インタビュアー:真栄中美樹    
2019.05.13 23:14    





Q11:これからカーデザイナーを目指す人にアドバイスはありますか?また、そのカーデザインに掛ける情熱をお聞かせください。

カーデザイナーのほとんどはまず自動車メーカーかその種の有力なデザイン会社に所属するところからキャリアをスタートすると思いますので、私がそれを目指す人にアドバイスできるようなことは事実上ほとんど無いと思います。

…と言ってしまっては身も蓋もないのですが、私は自動車会社のデザイン部などに所属したこともなければ美大はおろかデザイン系の専門学校等も行ったことがありません。だからカーデザイナーになるためのオーソドックスなルート、いわゆる王道を行くために役立つようなことは何一つ言えませんし、言っても説得力が無いと思います。

また、技術的な面でも、例えばスケッチの描き方(手描きでもCGでも)や、CGレンダリング、(組織では必要となるであろう)プレゼンに関するテクニックなども、誰かに教えられるようなものは何ひとつ持ち合わせていません。

そんなことですから自動車会社のデザイン部のような組織の中で仕事するのは全く自信が有りません。(若い時はそうでもないように思っていたんですが、今思うとどう考えても無理だったなとハッキリわかります)

ですので、そういった組織に所属して日々仕事をこなす方々の技術面と、それ以外の我慢強さとか忍耐力とかストレス耐性には畏敬の念を抱きます。



そんなイレギュラーな道をたどった、組織に属す能力の無い私ですが、もう20年くらい前、当時中学生の子からカーデザイナーになるにはどうしたらいいですか?というストレートな質問をメールだったか掲示板の書き込みだったかで受けたことがあって(その頃はその種の質問を受けることが時々あって、そのつどわりとまじめに返信していたのですが、それに対して簡単でもまた返事をいただけると嬉しいものでしたが、なしのつぶての方も少なくはなくて、まじめに返信するのがバカらしいようにも思える中、中学生というのはさすがに珍しいし、やり取りも感じが良くて覚えています)、 返信で、自分がたどってきたルートはかなり変わったものでとても人様にすすめられたものではないけれどひとつの方法ではある、でも回り道しないためにはその種の実績のある(卒業生がちゃんとそういう職種につけている)美大や専門学校に行って、専門知識や技術を学んで周囲と切磋琢磨して自分の価値を高め、自動車会社のデザイン部のインターンになるとか、目指すデザイン会社に積極的にアピールするとか…、そういう方法が良いことであるのは間違いないので、そう出来るようにまずは高校は進学校に行って、その先の選択肢をなるべく多く持てるようにしてください、そのためには今の学校の勉強をしっかりやって下さい、というような事を書いたと思います。

その中学生はこの返信にまた返信してくれて、とても喜んでくれていて、学校の勉強がんばります!とのことで、かわいい子だなと思い、その将来が彼の望むものになるよう祈らずにいられませんでした。

今も中学生以下の方に聞かれれば同じように答えると思いますが、話に聞いたところでは、今はカーデザイナーを希望する学生が少なくなって少なくなって、レベルも相応で(高くはないという事)…、とても以前のような状況ではないらしいと。いつの間にそんな残念なことになってしまったのかなと思うんですが、これも時代の流れなのでしょうがないのかもしれませんが、こんなことでは日本のカーデザインが世界をリードするなんていうのは夢のまた夢、かもしれないです。



そういうことで、あんまり偉そうなことは言えないのですが、自分が良いと思えるデザインをするためにいつも思っていることを書いてみます。

美しいものを見たとき、カッコいいものを見たとき、どうしてそう感じるのか考えるといいと思います。なぜ自分はそれを美しいとかカッコいいと思うのか、それを整理して考えることによって少しずつそれが体系付けられていって自分がどんなものをデザインしたいのか、だんだんと明確になっていきます。

そしてその幅や奥行きが広がれば、デザインするときにそれらがいわゆる引き出しのようなものになっていきます。引き出しの少ない私が言うのもなんですけど…。

作ってみたいもの、デザインしてみたいものがあったらまずやってみること、スケッチでもCGでもいいので、納得いくまで何度も何度もやってみること。

力いっぱい本気でやってみて、力尽きたら一旦終了、翌日見てみる。そうすると前日には感じられなかった違和感や未完成なところが目に付くと思いますので、その気になるところを修正、納得いくところまでやる、でまた翌日…、その繰り返しで完成度を高めていく。

修正を加える前の状態を保存しておいて修正後のものと比較できるよう、そのつど保存できたほうが良いので、そういう面でCGは好都合ですね。

3Dデータの作成も、最初は面倒に思うかもしれませんが、使えるようになればこんな良いものはありませんので是非やって欲しいです。

設計の知識もあればそれを活かして検討することで、そのデザインが実現可能なものなのかどうかある程度自分で判断できるようになり、非常に説得力の有るデザインをすることが可能になります。



スキルアップのためには、まず丸ごと1台のデータを作ってみることです。それも何となく形を決めるのではなく、 本当に自分の好きな形の車を。ソフトの操作を完全にマスターしていなくてもいいです。作っていく過程で必要に応じて調べて覚えていけばいいです。

ある程度形になってくると気分が高揚してきて楽しくなります。ディティール作りに入っていくと、どこまで作り込むかにもよりますが、結構手間がかかるようになると思います。

途中で嫌になってしまうかもしれません。

でも本当に好きな形を作っているのなら、ちょっと休憩(何日かおくのも悪くない)すればまた作りたい気持ちが盛り上がってきて続けられます。作っていくと思いもかけなかった面倒なところが出てきて、こういうところは一体どうやって作ればいいんだろう?技術的にはどう考えればいいんだろう?と思うようなところも出てくると思いますが、そうしたらそういう疑問を持ったまま既存の車を色々見てみます。

量産車でもコンセプトカーでもレーシングカーでも何でも。実車でもネットの画像検索でもいいです。

そうすると世の中の車はこういう風に処理しているのか、先輩方もきっと苦労されたんだろうな、この巧妙な処理はさすがだな、など色々なことがわかってくると思います。

中には、え?こんなのでいいの?というようなところもあるかもしれません。

そういう箇所に出くわしたときは本当にそれでいいのかもう一度疑ってかかってみて、何か秘密が隠されていないか調査したり、自分ならもっと良い方法でやれそうだからそうやってみよう…というようにレベルアップというか引き出し追加のきっかけにしてほしいです。

デザインにかける情熱、といっていいかどうかわかりませんが、Q5の回答の最後のほうで書いたこと、

“自分が本当に気に入ったものを作れれば、結果としてそれはオンリーワンになるのではないかと思っています。 自分の好みを自分以上に反映できる人は他にいないからで、誰かと全く同じ好みという事は実際問題としてほぼ無いと思いますので。ただ、自分以上に良いものを作る人は世の中に沢山いて、とてもこんなものは自分には出来ないな…と思うこともしばしばあります。”

これにつながるのですが、自分が作ったものよりも明らかに良い(いくつか好みではないところがあったとしても)、すばらしく好みだ、と思えるものに出会った時は“あぁ、やられた…”と思って背中のあたりがカァーッと暑くなったりします。

これは、あせりのようなものを感じて一時的に体温が上がるのかなと思うのですが、そういうライバル心のようなものが湧き上がる場合はまだいいのですが、酷い時は自分の能力の低さにガッカリして、こんな良いものを作れる人がいるのなら自分がやらなくてもいいじゃないか、こういう人に任せればいいや、うんその方がいい…などと思ったりもします。

素直に負けを認めるというか、まるっきり負け犬の精神状態です。

ですがしばらくすると、やっぱりやらなければ、やって本当に良いもの、会心のものを作らなければ…、そうでなければ絶対に自分は満足できない、そう思い直します。思い直すまでにかかる時間はまちまちですが。

どういうものを良いと思うのか、きれいとか美しいの判断基準はどうなのかというと、自分の感覚に正直に、としかいえないのですが、ただ自分の感覚に正直にといっても、根拠も無く自信だけ大きくしていってもどうしようもないので、そこは冷静に客観的な評価をしなければならないと思っています。

その上で自分の感覚に正直に…、そしてその結果に責任を持つ、そいう覚悟は必要です。

自分の目指す良いものがどういうものか、これは自分自信で考えを整理するためでもあるのですが、人の顔とか体に例えるとわかりやすく感じることがあります。

例えば、目は目らしい位置に適切な大きさで整った形のものが2個。それがまぁ普通にいいと思うのですが、それをゴージャスに見せるために3個とか4個にして、目は基本大きいほうが魅力的だから可能な限り大きくして二重の幅もドカッと大きくしてしまおう、個性を際立たせるために目じりをグッと吊り上げよう、まつげは長いほうが魅力的だからここは思いきって30mmくらいいっとくか、鼻もうんと高くして…、まだ何か出来ないかな、両サイドにスペースがあるから若干小ぶりな鼻でもひとつずつ追加するか…、ということで何がしかのモノが出来上がったとして、おぉぉすばらしく魅力的!ゴージャスで最高!!

…なんてことにはならないと思うんです。 適度なバランスというものがありますよね。

目は2個で適度な大きさの整った形、まつげの長さも適度で、鼻も顔の中央付近に形のいいものがひとつあるのがいいです。

プロポーションが良くて、個々のパーツの形も良くて、それぞれの大きさや位置のバランスが良い。それが本来の美人さんなのではないかなと思うんです。

自分が考える最高の美人さん。いろんなタイプの美人さんはいるけれど、彼女にするなら、結婚するなら、やっぱりオーソドックスな美人さんが一番いいなと思うんです。

人間の場合は必ずしもそういうお相手にめぐり合うわけではないし、例えめぐり合えてもその思いが成就するとは限らない、むしろ成就しない、めぐり合わないほうが圧倒的に多いのが現実というものだと思いますが…、相手が、対象が自分でデザインするものだったら、がんばればかなりいい線いけるわけで…、

なんだかもう変な人に思われかねないか心配ですがw 自分としては理想の恋人か奥さんに相当する車を作ろうとしているような感覚でいるということです。

ずっとそばに置いておきたい、一生めでていたい、そう思えるような車です。

自分が本当に納得する形であること、素直に美しい、カッコイイと思えるかどうか、それをいつも考えていて、それを追求した結果、結構いいものが出来たな…と自分で思えたらそれでいいです。

それでお客様から喜んでもらえて、更に、大津さんらしいですねなどと言ってもらえたら嬉しいものです。
(そういえば以前、知人から私のデザインした車を、なんだかちょっと猫っぽいですねと言われたことがあって、自分では全然そんなふうに思っていなかったのですが、そう言われて悪い気はしなかったです。猫好きなのでw)



オンリーワンというのは、そういう外からの評価でわかるもので、少なくとも私には狙ってやれるものではないです。

そうすべきでもないと思います。

(本当に能力の高いデザイナーというのはそういう事が出来る人達なのかな、とも思います。 そうだとすれば自分は一生一流にはなれないですね、間違いなく。)

そう思いつつ…、実は時々自分のデザインしたものに惚れ惚れすることがあってw、

はぁー、いいなぁ…などとまるで富士山を眺めたときのようにすがすがしい気分で、大きく吐いた息を吐きっぱなしのようになったりすることがあります。

本当におめでたいやつだと自分で思いますww



おめでたいというか、バカだなと思ったことをもうひとつ。

Q9の回答の最後のほうで書いた、“自分が作ったもので喜んで欲しい人に喜んでもらえる、カッコイイと言って欲しい人にカッコイイと言ってもらえる、こんないいことは他にありません。” というのに関係するのですが、

何年か前のテレビドラマで主役のフレンチかイタリアンの女性シェフが、“私は恋人に愛してるって言われるよりも、作った料理をおいしいって言われるほうが嬉しい。”みたいなことを言うシーンがあって、それを見ていた時は、ええーそんなもんかな…、職人気質みたいなものを言いたいのかもしれないけど、あんまり説得力ないっていうか嘘っぽいなぁ…と思ったのですが、しばらくしてその気持ちがわかるような気がしました。

いいものを作れたなと思った時に、“これすっごくカッコイイですね!”と、言って欲しい人に言ってもらえたら、そのほうが恋人に愛してると言われるより確かに自分は嬉しいかもしれない…、あぁ、あのセリフはまんざら嘘でもないんだ…。

そう思えてしまって自分でも少しばかり驚きました。



で、その自分自身で軽く驚いたこの妙な感覚のことを誰かに言いたくなって、

よせばいいのに妻に“俺このセリフ、わかるような気がするんだ、いい物を作ったときに〜”なんて話したところ、

“私にはとても理解できない…”的なことを言われて、あぁ、やっぱり言わなきゃ良かった、オレサマのバカ…と思いましたw




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